トップページへ
スペシャル一覧へ
音楽作曲制作 上松範康さんインタビュー

今回は、『喰霊-零-』の劇伴(BGM)と、第1話挿入歌「Dark Side of the Light」の作曲と編曲を担当された上松範康さんにインタビューを行いました。音楽制作ブランドElements Gardenの代表として有名な上松さんは、どのようにして『喰霊-零-』の世界に音楽をつけていったのでしょうか?


写真2
【上松範康さんプロフィール】
音楽制作会社アリア・エンターテインメント代表取締役、音楽制作ブランドElements Garden代表・プロデューサー

◆代表作
【アニメ】「魔法少女リリカル☆なのはシリーズ」「ロザリオとバンパイア」「S・A〜スペシャル・エー〜」「君が主で執事が俺で」「護くんに女神の祝福を!」

【ゲーム】「白騎士物語」「WILD ARMSシリーズ」「GALAXY ANGELシリーズ」「カナリア」「true tears」「首都高バトル0」

Q:作曲活動に携わることになったきっかけは何ですか?
 僕の実家は楽器屋で、父親はギターの演奏家、母親はピアノの先生だったため、生まれたときから非常に身近に楽器があって、音楽以外の進路を考えることの方が難しい環境だったんです。
 それで僕も最初、ピアニストやドラマーのような何かの演奏家になりたいと思っていたんですが、しだいに「自分には、演奏よりも作曲の方が向いているんじゃないか」と思うようになって音楽を作り始め、まず音楽の制作会社にアシスタントとして入り、徐々に作曲家として活動できるようになっていきました。そして僕はアニメやゲームが大好きだったので、アニメとゲームに特化したElements Gardenというブランドを作ったんです。その中で、以前あおきさんが監督された『GIRLSブラボー』というアニメの劇伴などを制作させていただきました。

Q:最初に『喰霊-零-』という作品の劇伴制作の話を聞いたときの印象は?
 原作は知らなかったんですが、ランティスのプロデューサーの斎藤(滋)さんからお話しを頂き、話が始まってものの3分くらいで「やります」と答えました(笑)。僕がこれまでにやってきた仕事は萌え系作品のものが多くて、そういう作品も好きなんですけど、『喰霊-零-』ではそれまでやったことがないかっこいい音楽を求められたので、ぜひやりたいと思ったんです。それからすぐに原作を読ませていただいて「こんなかっこいい作品に音楽をつけられるんだ」と喜んだことを覚えています。

Q:『喰霊-零-』ではどのような方針で劇伴を作られることにしましたか?
 この作品の現場はスタッフのチームワークをすごく大切にしていると感じたので、まずこのチームに溶け込むことから始めました。最初から「音楽はこうしたい」という考えを持って臨むのではなく、僕もロケハンなどについて行ってアフレコなども見学するようにして、そこでのチームの中の会話から、音楽の基盤を見つけるようにしたんです。
 僕とあおき監督は年齢が近いので話がよく合うんですが、まずは世間話から始まり、徐々に『喰霊-零-』の話をして「こういう世界の中では、こういう音楽が好き」などと自然に対話しながら、どういう音楽にするか探っていきました。きっとあおきさんは「上松さんだったら、どんな音楽にしてくれるだろう」と考えていただいていたと思うんですが、僕はあおきさんとの会話の中で「より映画的な音楽」を求められていると感じたんです。それと自分の売りは弦楽器を使う音楽だと思うので、それらを研究して盛り込んでいくうちに、今の『喰霊-零-』の音楽になっていったと思います。

Q:具体的には、どのように曲を作っていかれましたか?
 今回「かっこいい音楽」を求められていることもあって、ありきたりなものにしたくはなかったんです。そこでより映像にマッチした音楽を作れるように、先にアフレコされた映像素材をいただいて、それを見ながら作曲するという、劇場作品のような音楽制作の仕方をしました。
 ふつうのTVアニメの場合、「こういうシーンの音楽が必要」という曲発注のメニューをもらい、それにあわせて音楽を作ってサウンドトラック完成、あとはアフレコ直後のダビング作業で音響監督の方が、出来上がったサウンドトラックの中からシーンにあった曲を選んでいくという形で進めていくのですが、今回の『喰霊』ではアフレコを見学させてもらえて、さらにアフレコが終わった段階の素材を見ながら作曲できたんです。そこで「このシーンでこの音楽を使ってもらえないかな」と考えて、曲発注のメニュー以上に音楽を作りました。
 僕の音楽って大仰で目立つから、時として映像を食ってしまいかねないことがあるんですよね。ですので「このシーンと音楽はぴったり合っている」と思っていただいたら、最初からそのシーンに曲を当て込んで作っていったところです。
 その一方で、自分の想像とは別の場所で曲が使われていることもあって「この音楽を、こういう使い方をしていただいたのか」と思うこともあり、発見の多い現場です。

Q:現段階までの中で、特にお気に入りの曲となるとどのシーンのものになりますか?
 第1話の、外郭放水路に火車を誘い込む一連のシーンで使われた、すごく長い曲ですね。あそこはセリフが少なく映像で魅せる場面なんですけど、音楽を入れないと間が持たないと思ったんです。「もしかして音楽を入れる隙間を残してくれたのかな、それとも監督に試されているのかな」というくらいプレッシャーでした(笑)。
 セリフが少なかったため、映像音楽というより歌曲のように、メロディーが耳に残る作り方をしたんです。そうしたら気に入っていただけたのか2話でも同じ曲を使っていただいたので「こういうメロディアスな劇伴もありなんだな」と思いました。

 あと第3話の、神楽と黄泉が学校から帰って、神楽が泣いてしまうまでのシーンは、僕がアフレコを見学させていただいているとき、感動して思わずうるっときてしまったんです。ですのでここは、完全に映像にあわせて作曲することにしました。
 僕にとって映像を見ながら作曲しやすい楽器がピアノだったので、映像を見ながらピアノを弾き、声優さんの声の邪魔にならないようにしつつ、神楽が上を向いた瞬間に「ぽろん」と鳴らすなど、自分の感情のまま音楽を作ってみました。このように映像を見ながらリアルタイムで作曲したというのは、新しい試みなんじゃないでしょうか。

Q:第1話の挿入歌「Dark Side of the Light」については、どのように制作されたのでしょうか?
 視聴者の方を惹きつけるため、特にこのアニメは第1話が大切だということは最初の打ち合わせの時から強く感じていたんです。その中で第1話の映像を見ているうちに「歌を入れたらよりドラマティックに見せられる」とイメージが湧いてきたんです。でもこのことを思いついたとき、映像に音を合わせる作業をする日まで1週間くらいしかなかったんですよ。
 ボーカリストについては飛蘭という、歌で表現する能力にすごく長けた子がいたけど、日本語の歌詞だと駄目だと思ったんです。そこでランティスの斎藤さんに相談したら、英語で作詞ができる渡邉美佳さんを紹介してくれて、他にも色々とすごい仕事ぶりでスケジュールなどを調整してくれました。
 作詞作曲するだけではなく、歌を練習してもらう時間なども必要だったのでギリギリでしたが、どうしても「ここに歌を入れたい」とこだわって作ったのがあの曲なんです。本当に、映像に導かれて作ったような歌でした。

Q:実際に、アニメの『喰霊-零-』をご覧になっての感想は?
 多分僕は、誰よりもこのアニメを見ているんじゃないでしょうか。自分自身がアニメオタクだからというのもあって、1話につき10回くらいは見て、セリフを全部覚えているくらいです(笑)。純粋に「かっこいいなあ」と感じましたけど、自分の音楽が流れるシーンになると「この音楽で良かったのかな」と汗が出ますね(笑)。
 一番気に入ったのは1話の最後の、黄泉が全員をジェノサイドしていくところですね(笑)。ここは「今までのアニメにない」と思ったシーンなので大好きです。もう僕は純粋にこのアニメのファンになっています。
 音楽家の立場から言うと、映像と音楽のコラボレーションというところにも皆さんに注目してもらえると嬉しいです。このアニメは「チーム力命」という感じで制作しているので、1シーンごとの音楽と映像のマッチのしかたにも面白さを感じてもらえると思います。

本日はありがとうございました。

上松さんには、ジョークを挟まれつつとても気さくに話していただきました。『喰霊-零-』を、これからより音楽にも注目して見たくなるお話でした。

(インタビュー:桝谷直俊)

本ページトップへ
トップページへ
スペシャル一覧へ
本作品はフィクションであり、登場する人物、団体名等は実在するものではありません。
(C)2008瀬川はじめ/[喰霊-零-]製作委員会